【会社役員賠償責任保険(D&O保険)】-役員訴訟に備える保険- 補償事例やメリットを解説
2024.5.15
香港で事業をされている経営者や役員の皆様は大きなやりがいや責任を感じながら職務に取り組まれているでしょう。その一方で、会社経営にかかわるリスクも抱え、積極的な経営判断に苦慮されている方もいらっしゃるかもしれません。
なかでも役員訴訟に関するリスクは、役員の皆様の個人資産に大きなインパクトを与えます。役員訴訟を提起された場合の経済的な重荷を軽減し、業務へより集中していただけるよう「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」で備えをされてはいかがでしょうか。
特に駐在員の方々からは、日本本社における役職が部長級であるにも関わらず、香港の現地法人において役員の地位を有することから、給与水準に見合わない責任を負わされる可能性があるという問題が、重大な懸念材料となっているという声もお聞きします。
本記事では、香港で会社経営に従事される役員の皆様に必須ともいえる「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」の概要およびメリットを補償事例とともに紹介します。
日本と香港の訴訟に関する背景の違い
企業経営において役員に求められる役割や、会社および株主、顧客、従業員をはじめとした第三者に対する責任は日本も香港も同様です。
しかし、日本と香港では文化や国民性、条例等々、役員を取り巻くビジネス上の背景にさまざまな違いがあります。
香港は日本より訴訟が多い?
香港では日本に比べて役員訴訟を提訴されるケースが多い傾向です。なかでも従業員が役員を訴えるというのはよく見られます。
例えば、職場内で負ったケガを職場環境が悪いせいだと訴えるケース。また、会社が従業員を解雇すると、解雇された理由を不当差別だといって訴えるケースなどもあります。
香港には「平等条例」といって、国籍、人種、性別、年齢、宗教等、あらゆる違いに関して差別してはいけないという決まりがあります。役員のほうに悪気はなくても、何気ない発言や態度に普段から不満を抱えていたりすると、解雇を発端に差別として訴訟に発展させられる可能性も高くなります。
宗教や条例による違いとは
日本でもダイバーシティ(多様性)を尊重する流れになりつつあり、誰もが平等であるべきことは理解されているでしょう。しかし、平等を訴える背景に日本と香港では違いがあることは理解しておきたいことです。
例えば、宗教上の食事や礼拝への対応などといったセンシティブな問題や、古くから社会に多様な国籍、文化、宗教等が混在していることなどです。前述した平等条例もあり、平等への意識のズレがあると、差別やハラスメントなどとして顕在化しやすいでしょう。
会社役員賠償責任保険(D&O保険)とは?
こういった意識のズレは従業員・役員間だけではく、すべての関係者との間でもあり得ます。役員の責務に細心の注意を払ったとしても、訴訟リスクを払拭してしまうのは難しいかもしれません。
せめて経済的・精神的な負担を軽減できるよう、会社役員賠償責任保険(以下、D&O保険)での備えが求められます。
会社役員賠償責任保険(D&O保険)の概要
D&O(Directors(取締役)&Officers(執行役・監査役等))保険は、会社の役員および管理職従業員がその業務の遂行に伴う行為に起因して、保険期間中に第三者から損害賠償請求の提起を受けた場合に、負担する賠償金・争訟(訴訟・防衛対応)費用を補償する保険です。
ここでいう役員とは取締役、会計参与および監査役または執行役、執行役員を指します。また、訴訟提起される相手方は、顧客(取引先)、従業員、株主、競合他社、金融機関など、法人を取り巻くあらゆる関係者・ステイクホルダーです。差別やセクハラ等で従業員から訴えられた場合も対象となります。
補償内容と免責事項
D&O保険では、損害賠償に対する訴訟を提起された際にかかる費用が補償対象です。
しかし、製造物そのものによる損害賠償、政府はじめ監督当局より課せられる罰金等は補償されないことには注意が必要です。もちろん犯罪・法令違反行為に該当する場合は対象外です。
補償対象となる費用は以下のとおりです。
<主な補償内容>
- ・公的調査対応費用
- ・刑事訴追防御費用
- ・汚染物質損害賠償請求防御費用
- ・PRコンサルティング費用
- ・資産差押・身柄拘束対応費用
- ・なりすまし損害賠償請求防御費用
- ・過料・罰金
- ・緊急費用
- ・新規子会社役員の自動担保
- ・非常勤役員に対する上乗せ限度額
なお、補償限度額や免責事項も設けられています。かかった費用の全額が補償されるわけではないことに注意してください。
<主な免責規定>
- ・契約開始前の発生事故(保険対象者が既知の場合)
- ・保険証券上の期日以前に提訴された訴訟に関連する損害賠償
- ・病気や精神的苦痛または死亡を請求の理由とする損害賠償請求
- ・財物の破損や消失などに関する損害賠償請求
- ・戦争や暴動などに起因する損害賠償請求
- ・自然災害起因の損害賠償請求
製造物による損害賠償に対しては製造物責任保険(PL保険)、病気や財産損失などは医療保険や企業財産保険など、別の保険で備えておくことも大切です。
会社役員賠償責任保険(D&O保険)の補償事例を紹介
賠償責任訴訟に至る理由や経緯は千差万別ですが、多くの場合、賠償責任としての請求額は多額です。ここでいくつか事例を紹介します。
【事例1】独占禁止法違反として課徴金納付命令を受けた事例
ひとつ目はある電工会社がカルテルの疑いにより当局の立ち入り検査、独占禁止法違反として67億6,272万円の課徴金納付命令を受けた例です。
この一件では、当時の取締役17名がカルテル防止義務を怠った責任、問題発覚後に課徴金減免制度を利用しなかった責任などが問われ提訴され、裁判に至りました。会社に与えた損害額67億6,272万円(5億2,000万円で和解)を請求されています。
【事例2】株主から訴えられた事例
2つ目は、グループ会社を完全子会社化するためにグループ会社の株主が保有していた株式を買い取った企業(A社)の事例です。
グループ会社の株式は、もともと1株あたり5万円で出資されていたものです。しかし買取り当時の株式評価額は1株あたり1万円程度。評価額での買取りでは株主による反発が予想され、当時のA社取締役3名は出資額での買取りを決定しました。
ところが、買い取った側のA社株主から「不当な高額買取価格の設定」「取締役としての任務懈怠」として株主代表訴訟が提起されました。グループ会社の株式買取り総額1億5,800万円のうち1億3,000万円(1億2,640万円で一部容認判決)を請求されています。
会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するメリット
従来、D&O保険は株主代表訴訟に備える上場企業向けの保険とされていましたが、現在では上場有無を問わず、幅広くビジネスのリスクに備えるための保険として、多くの企業で契約されるようになってきています。あらためてD&O保険に加入するメリットを確認しておきましょう。
ビジネスのリスクに備える
重大な経営判断による事業発展とリスクは表裏一体にあります。言い換えると、役員訴訟はどのような企業でも起こりうるリスクということです。かつては役員に対する訴訟は株主代表訴訟が中心でしたが、グローバル化や多様化の進展とともに、株主以外の第三者からも各種ハラスメントを始めさまざまな理由で提訴されるケースが増えています。
訴訟になれば賠償金や裁判費用が発生するうえ、弁護士、監督当局、訴訟相手との対応に追われて通常の業務にも支障が出てしまいます。企業イメージや信用失脱への対応も必要になります。 役員だけでなく、普段、従業員と直に接しているマネジャー等の管理職も補償対象になるのも安心です。
香港の政治的なリスクに備える
香港では「国家安全法」への違反として政府から訴えられるリスクも無視できません。 万一、国家安全法に違反して、身柄拘束されるといった事態になると、高度なノウハウを有する弁護士への依頼や身柄引渡し手続きに膨大な費用がかかる可能性もあります。
D&O保険では政府に対する罰金は補償はされませんが、法対応などの関連費用には備えられます。
法律的な費用をカバーできる
D&O保険で補償対象となる費用の種類は先にお伝えしたとおりですが、法的関連費用の負担が大きくなるケースもよく見られます。
例えば、従業員を相手とする裁判で、相手方の法的費用も役員側が負担するような場合です。具体的には、従業員より提訴されて、裁判で役員側の勝訴、従業員側の敗訴となるような場合、一般的には敗訴となった側の負担割合が大きくなります。しかし、負担能力の違いから勝訴となっても役員側が支払うケースがあります。このような場合にもD&O保険は有効です。
D&O保険で役員・管理職を守り、万が一への備えが日々の業務邁進へ
D&O保険は法律的費用に対する備えはもちろん、ビジネスリスク管理の一環として、企業規模や上場有無にかかわらずすべての企業に必要な保険です。加入対象者は役員に限られず、管理職も対象となります。香港では不当解雇として人事部長が訴えられるリスクも多く、このような場合の備えとして役立ちます。
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